冬の足袋
冬用の足袋があると知ったのは、自分で着物を着られるようになった最初の秋だった。
少しずつ冬の空気も感じられるようになってきた11月のその日、着物仲間とのランチのため、朝から着付けに取り組んでいた。
自分で着られるようになったとはいえ、着終わるまで二時間近くかかる。あーでもないこーでもないとしているうちにいつも汗だくになるので、もちろん暖房は入れず、さらに窓も開けた部屋で一人黙々と着付けていた。
ようやく完成も見えてきた頃、足がとても冷たいことに気づく。足袋は履いていたが、フローリングの上に2時間近く立っていたので、床の冷たさが足に染み込んできたようだ。
冷え性なので普段は必ず、夏でも底の厚いスリッパを履いているのだが、着付けの時には少し邪魔になる。それで、スリッパは履かずに足袋でいたのがよくなかった。
しかし、気付いた時には冷えはもう足の裏からずんずん上がって脚全体が芯から冷え切ってしまっていた。
しまった、と思ったが、なにせ二時間近く着付けにかかるので、ランチの待ち合わせ時間までにはもう足を温める時間はない。歩いているうちに温まってくるだろうと、とりあえず家を出た。
しかし、歩けども歩けども足は温まらず、とうとうランチの間じゅうガタガタと震えが止まらなかった。
一刻も早く帰って足を温めようと足早に帰る道すがらふと足元に目を落とすと、着物の足元のあまりにも無防備なことに気づく。
草履で足裏こそ守られているものの、他の部分はむき出しである。
暖かい季節には気がつかなかった。むしろ締め付けがない分、快適なくらいであった。
しかし、今日は違う。
冬目前のこの季節に上着を着ずに歩いているようなものである。
子供が上着を着ずに出かけようとしたものなら、風邪ひくでしょ!と一怒りである。
それが自分の足は完全に見落としていた。うかつであった。
でも、それではどうしたら良いのだろう。
なにかカバーを?
たしかにカバーのある草履がある。
どこかの百貨店ではアザラシの毛のカバーのものもあった。
あれか?
しかし、真冬の雪の日ならまだしも、本州の11月からそんなものを履いている人はいないだろうことは初心者の私でもわかる。
みんなどうしているのだろう。
我慢しているのか?
そういえば「オシャレは我慢」とはよく聞く言葉である。
それか?
せめて足袋がもう少しあたたかかったらなぁ・・。
それか!
現代の便利なことといったら、どんな疑問もネット検索すればすぐに答えの出ること。しかも、スマートフォンを使えば外にいてもそれができる。本当に便利である。
電車の中で早速検索した。
「足袋 冬用」。
あった。通販サイトの商品ページもすぐに出てきた。
やっぱりあるのだ。
冬の足袋にもいろいろあって、外観からあったかそうな別珍のものなどもあるが、見た目は普通の足袋と変わらないものもちゃんとあった。
内側がネル素材で出来ているらしい。フリース素材というものまである。
家に着くのも待ちきれず、早速ポチッと購入ボタンを押した。
届いた足袋を履いてみる。
内布がついただけでなんと暖かいことか。
すっかり気に入った冬の足袋。
冬のみならず、秋口から春先まで、私の足元をしっかりと守ってくれている。